2012年2月10日金曜日

Media Keg MG-G708 (JVC KENWOOD) レビュー

2012/05/17 *新しいファームウェアが公開されましたので、
動作検証後にレビューを投稿しました。
続・レビュー:http://anemone-yoshifumi.blogspot.jp/2012/05/media-keg-mg-g708-jvc-kenwood.html

JVC KENWOODから2011年10月に発売されたDAPである
Media Keg MG-G708についてのレビュー。
専用のケースや保護シートが売られていないため
ダイソーで購入した液晶保護シートと小物入れを使用
2011年6月にMG-G608が発売された僅か4ヵ月後に登場した
音質重視のマイナーチェンジ(?)モデルとなる。
Bluetooth機能がカットされ、Supremeと呼ばれる
圧縮音源の帯域補間技術が搭載された。
また、Dual ARM Coreを採用した高精度32bit DSPが搭載された。
G608とG708にはかなり音質差があるらしく、
どちらの音質が良いか議論される事がしばしばあるが、
残念ながら私は実際に両機種を確認する機会に恵まれなかったため、
これについては発言を控えたい。


まずはG708の音質について。
ポータブルヘッドホンアンプを使うまでもなく
超低域の歪みが少なく感じられる。
Class-W方式デジタルヘッドホンアンプ搭載により
DCカットコンデンサを不要とした事による恩恵らしい。
DAPには低域を盛ってこの辺りを改善している機種が多く見られるが、
G708は低域を盛ることなく、
自然な音質のままで鳴らす事に成功している。
デジタルヘッドホンアンプと言うと真っ先に
SONYのWALKMANを想像する人が多いのではないかと思うが、
あれとは全く違った方向の音作りだ。
例えばウォークマン史上最高音質を自称しているS-Master MXは
低域を大きく盛るタイプのものだ。
確かに高音質なのかもしれないが、あえて悪い言い方をするなら、不自然。
いかにもデジタルという風情の、作られた音だ。
そこらの携帯電話やスマートフォンとは明らかに音作りが異なるため、
ユーザーが音質向上を明確に体感できるというメリットは大きい。
しかし、イヤホンとの相性がシビアであるというリスクもある。
実際に、家電量販店のデモ機に自分の所持している
聴きなれたイヤホンを刺して聴いてみるとよく分かる。
少なくとも10proの鳴り方は好ましくなかった。
一方で、G708はフラットで自然な音作りだ。
いっそ無個性と言い換えても良い。
イヤホンとの相性をあまり気にしないで良い、
イヤホンの持ち味を生かせる、というメリットは大きいが、
無個性故に音質の向上を体感し辛く、
特に最近のそこそこ高音質なiPhone等と比べると
ユーザーが劇的な変化を体感し辛いというリスクが存在する。
お気に入りのイヤホンが複数あり、
曲や気分によって使い分けているという人には
G708はお勧め出来る機種と言えるだろう。

音の広がりとか定位置とかいったものについては、
違いこそ辛うじて認識できるものの良し悪しがよく判らないので
残念ながら私には詳しくレビュー出来ない。
比較的広い方だろうとは思う。
解像度…というのは言葉がよくわからないのだが、
分離度という意味でなら程々といったところだろうか。
過度に強調した印象は無い。
この点において不満を感じる者は少ないだろう。


EQは5バンドで、プリセット6種(NORMALを除く)に加え、
カスタムとして3種登録出来る。
この辺りの自由度は他機種に劣る。
ワンタッチでEQを変更する事も出来ない。
電源ボタン一回、下キーを二回、決定キーを一回、
その後上下でEQを選んで決定キーを押さねばならず、
気軽にほいほいと変える気にはなれない。


操作性は悪いと言わざるをえない。
例えば、プレイリスト管理が出来ない。
「お気に入り」として曲を登録する事は出来るが、
お気に入りは1つのリストとしてしか機能しない。
スマートフォン等でプレイリスト管理を頻繁に使用していた者にとって
この仕様は非常に不便だ。
基本的にはアーティスト名やアルバムタイトル、ジャンル名、
あるいはフォルダ名で選択し、再生する事になるだろう。
(ちなみにフォルダの階層を指定した再生には対応していない。)
タグ管理を徹底すればこの辺りの利便性の悪さを軽減出来る。

また、一つの曲を探すのに結構な手間がかかる。
例えばスマートフォンの場合、特定の曲名、あるいはアルバム名の
頭文字に直ちにスキップ移動する事が出来る。
しかしG708はひたすら下ボタンを連打して
目当てのアルバムや曲に向かわなくてはならない。
収録曲数が増えれば増えるほど、この問題は悪化する。
幸いにもキーレスポンスは良好なので、
連打すれば高速移動出来なくもないのだが、
頭文字スキップに慣れている者からすれば
大きなストレスとなるだろう。


バッテリーの持ちはあまり良くない。
公称値で19時間。実際にはもっと短くなるだろう。
また、この手のDAPにはありがちな事だが
自分でのバッテリー交換は出来ない。
メーカーに送って交換して貰う事になる。
メーカーに問い合わせたところ、
送料別3,150円で交換して貰えるようだ。
内、技術料は1,575円、つまりバッテリーそのものの価格は
1,575円という事になるが、
バッテリー単体での販売は行っていないそうだ。
さて、3,150円なら別に良いのではと思われるかもしれないが、
実際には往復の送料と、あるいは代金引換等の手数料が発生する。
総費用は4千円を超えるだろう。
2年後か、あるいはそれ以上先に、
本体が劣化した状態で4千円以上も払って
バッテリーを交換する気になれるだろうか。
その頃には新機種も登場している。
大多数の人はバッテリー交換などせず買い換えようとするだろう。
商品サイクルを管理したいのは解るが
この辺りは不親切な気がしないでもない。
もしバッテリー交換が手軽に素早く出来るのなら、
予備のバッテリーを常備して電池が切れ次第
さっと交換するといった使い方も出来るのだが・・・。



以下、G708(おそらくG608でも同様)が抱える
致命的な問題について、
長く駄文が続いてしまうので先に要点を述べようと思う。

認識可能なファイル数が少なく、タグ管理にも不備があるため、
多くの場合において曲表示に支障を来す。


<認識可能なファイル数及びタグ情報量の上限とその弊害について>
各所のレビューで32GBのmicroSDHCが使えたという報告があるが、
実際には一般的な使い方をすると不具合が発生する
公式に対応している16GBですら危うい。
というのも、ファイル数やタグ情報量の認識上限が少ないのだ。
取り扱い説明書の仕様表によれば、内臓メモリに4,000個、microSDHCに4,000個、
合計で8,000個のファイル(フォルダ含む)が認識可能となっている。
メーカーによると、理論上は内臓メモリとmicroSDHCの合計で
12,000個までのファイルを認識可能との事であるが、
全ての使用条件において保証できるものではないともおっしゃっていたので、
使用上の目安としては8,000個と考えた方が良さそうだ。
参考まで、競合機種であるCOWON J3のファイル認識数は
内臓メモリ及びmicroSDHCの合計で24,000個である。
(厳密に言うと、音楽及び動画ファイル16,000個、その他ファイル8,000個。)

G708の発売時期を考えれば、32GBのmicroSDHCの使用を前提とした
仕様にすべきだったろう。
いっそmicroSDXCに対応させても良いくらいだ。
WAV形式や低圧縮音源を保存して少数の音楽を聴くという使い方では
帯域補間技術を搭載した意味が無くなってしまうし、
開発者の考えている事がよくわからない。
タグ情報の認識上限については、メーカーによると
全ファイルに記録された各種タグのデータ総量に
依存するため明確な上限数を提示できないとの事だ。
しかし私の検証では少なくともアルバムタイトル数は255個までしか認識出来ない
という具体的な数字が出ているし、
アルバムタイトル数上限については他所でも全く同様の報告が上がっているので
凡そ当たっていると考えて良さそうだ。
ちなみに、私はアルバム毎にフォルダを作成しているため
アルバムタイトル数=フォルダ数となっているのだが、
フォルダも同様に255個までしか認識できない事を確認している。

さて、数字だらけで解り辛かったかもしれないので
具体的な不具合の事例を述べよう。
一般に多いAAC128~192kbpsでCDをリッピングし、16GBのmicroSDHC及び
内臓メモリに容量上限近くまで保存したとしよう。
するとほとんどの場合において、
ファイル数やタグ情報量過多により曲名表示が狂い、
選択できない曲が生じる
アルバムタイトル等から曲を探そうとしても
見つける事が出来ないのだ。
アルバム毎にフォルダを作成している場合、
フォルダ名から探そうとしても同様に選択できない曲が生じる。
私はMP3可変ビットレート245kbps(foobar2000 LAME v0)で保存しているが、
それでもタグ情報が若干オーバーしてしまう。
固定ビットレート320kbpsならばおそらく不具合は生じないだろう。
32GBのmicroSDHCを使用し、容量をめいっぱい有効活用する場合には
WAV形式と混在させるしかない。
変則的な手段としては、複数の曲を繋げて保存する事で
ファイル数及びタグ情報を減らす事も出来るが、
曲検索の際に利便性を損なうので現実的ではないだろう。
また、二枚組みのCDを同じアルバムタイトルで統合し、
タグ情報を減らすという手段もあるが、
G708はディスクナンバーに関するタグ情報を扱わないため
曲順が混在してしまう事になる。
トラックナンバーの変更を行わねばならず、
少々手間がかかってしまう。



総評としては、正直なところ買って少し後悔した。
一番の問題は、沢山の曲を入れられないという事だ。
各所で32GBのmicroSDHCが問題なく使えたというレビューがあったため、
これは沢山の曲が入るなと期待してG708を買ってしまった。
ファイルの認識上限数は公式ページの定格表で
何故か省かれていて問題に気付けなかったし、
タグ管理がここまで弱いとも思わなかった。
ましてやフォルダ表示ですら不具合が発生するとは思いもせず。
ファイル数やタグ情報量の認識上限の少なさから、
曲数が増えるのを避けるために高圧縮音源を入れる事を避けてしまい、
結果的に折角のSupremeを生かせるシーンが無いという点も
悪印象の原因の一つかもしれない。
また、スマートフォンのタッチパネルによる高速操作に慣れているせいで、
時間のかかるキー操作による曲検索に
思いのほかストレスを感じるというのも想定外だった。
これからG708を買う人は気をつけて欲しい。
このDAPは音質こそ良いものの、
利便性において相当に妥協しなければならない。
事前に知って納得した上で買えば、印象は全く違うかもしれない。


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